だれもいなくなった

何しろ、アビーを始めとしたフリーステイツは、一度ならず二度までも終末の危機を乗り越えたはずだったのである。
最終戦争はバンカーでやり過ごせた。スコーチビーストすら、ハーパーズ・フェリー全滅という打撃はあったものの、それでもフリーステイツのメンバー自体は逃げおおせた。

にも関わらず、最後にはこの有様である。アビーの心に去来したであろう様々な光景…キャンプ・ベンチャーで皆と訓練した日々、バンカーでの生活、ハーパーズ・フェリーの様々な仕事、そして現在、バンカーでただ一人スコーチ探知機と格闘する自分…を思うと、何ともやりきれない気持ちになる。

アビー
「ホロテープさん。わかってる…私の知っている人はもう全員死んでるって。この無能なシステムに煩わされていなかったら、彼らはまだ全員ここにいたわ。そうね、ちょっと聞いてよ。あなたたちが全員死んだら、目的が果たせないじゃない！どうして…バンカーにとどまっていられなかったんだろう？どうして外に出る必要があったの？毎日肉詰めを食べて、二度と太陽を見られなくても構わない。ここに…一人でいるぐらいなら。母が恋しい…父も。本当なら、ここにいることになっていたのに。友達も人生も、みんな取り上げられた。状況は良くなる、ていうってあなたの愚かな見通しのせいで！これが最高だったって！それで？これは私一人じゃできないわ。一人じゃやりたくない。元の状態に戻したいだけなの…」

アビーのバンカーで寝室の写真立て裏に隠されたホロテープ。他のフリーステイツメンバーがバンカーを出ていき（そして恐らく全滅し）一人残されたアビーの絶望に満ちた独白が録音されている。