イアン・オーウェルのターミナル

まだ気分が悪い。頭がぼんやりする。集中できないし、文字を打つのも難しい。でも、ここにいれば安全だ。そう言えるように作ったからな

シェリルはわかってない… 何を犠牲にしたか。借金や、準備にかけた数ヶ月という時間。全部彼女のためだ。彼女と、決して授かることのない赤ん坊のためだ

シェリルは出ていきたがっている。それはダメだ。俺がさせない…

今は9月だと思う。数ヶ月前から日にちの感覚がなくなった。果樹園の葉はきっと色を変え始めているだろう。1年で一番好きな時期だ

ほとんどすべてのものが動かなくなった。残っているのは必需品だけだ… 空気、水、そして食料。でも読む本はたくさんあるし、パッティングが今までになく上手くなった

ここ数ヶ月、調子がよくない。髪が抜けてきて、体重も落ちてる。シェリルはここにいると俺の具合が悪化するから、助けを求めたほうがいいと言う

俺達は大丈夫だ。俺はまだここを出ていく気になれない

約5ヶ月経った。赤ん坊の件はまだうまくいってない。努力してないわけじゃないが。空から降る放射能がここまで漏れているんじゃないかと思い始めた

物資は少なくともあと1年はもつ。あちこち修理しないといけないのが大変だ。先週は貯水ポンプが壊れて… その数日前には核融合ジェネレータが壊れた。プロジェクターも駄目になったし、ヒーターもそろそろいかれそうだ

修理をこなしている限り、俺たちは大丈夫なはずだ

メリークリスマス… 俺たちが避難して1ヶ月と少し経った。うまくやってるよ。物資は十分だし、設備もスムーズに稼働している。この場所について黙っていたことを、もうシェリルは許してくれたみたいだ

今朝、すべてがめちゃくちゃになる前に手に入れたベビーベッドを見せたら、シェリルは驚いてた。すごく興奮してたよ。今まで彼女が見つけられなかったのが不思議だ。シェリルはいつも子供が欲しいと話していたけど、俺たちにとっては常に果樹園が優先事項だった

まあ、今の俺たちには時間がたっぷりある。ここで新しい暮らしを始めるのもいいかもしれない

この場所を建てるために俺がどれだけの借金をしたかシェリルが知っていたら、きっと俺は殺されていただろうな！ でも長い目で見れば、報われたみたいだ

彼女は銀行に最後の融資が断られたことは知っているが、その理由は知らなかった。銀行が今になって金を取り戻そうとするところを見たいもんだ！ あの果樹園を保つのはどのみち無理だっただろう。蛾が現れる前ですら、何年も利益が出ていなかったから

最悪なのはそこじゃない。爆弾が落ちる直前、俺たちは宝くじに当たったことを知った。担当者が次の月に来る予定だったが、もうその話はなくなっただろう。残念だ。現金があれば、トイレットペーパーの足しにはなったかもしれないのに

オーウェル防空施設にある、イアン・オーウェルの個人ターミナル。

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-= イアン・オーウェルの個人ターミナル =-
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